頬の痛みや色のついた鼻水など、上顎洞炎の不快な症状を、「そのうち治るだろう」と軽く考えて放置してしまうと、どうなるのでしょうか。自然治癒を期待して医療機関を受診せずにいると、単に症状が長引くだけでなく、様々なリスクや、より深刻な状態を招いてしまう可能性があります。最も一般的なのが、病気の「慢性化」です。急性のうちに適切な治療を行えば、多くの上顎洞炎は比較的短期間で治癒します。しかし、放置して炎症が長引くと、上顎洞の粘膜そのものが腫れぼったく、膿が排出されにくい状態に変化してしまいます。これが慢性上顎洞炎、いわゆる蓄膿症です。こうなると、常に鼻が詰まっていたり、嫌な臭いのする鼻水が出続けたり、頭重感が取れなかったりと、生活の質を大きく低下させる症状に悩まされることになります。治療も長期にわたり、内服薬だけでは改善が見られず、手術が必要となるケースも少なくありません。また、稀ではありますが、より重篤な合併症を引き起こす危険性も潜んでいます。上顎洞は、目や脳といった非常に重要な器官と隣接しています。そのため、上顎洞の強い炎症が、周囲の骨を溶かして、目の奥にある眼窩(がんか)や、頭蓋内にまで波及することがあります。眼窩内に炎症が及ぶと、視力障害や失明に至る危険性があります。さらに、頭蓋内にまで炎症が広がれば、髄膜炎や脳膿瘍といった、命に関わる極めて危険な状態を引き起こす可能性もゼロではないのです。これらは非常に稀なケースではありますが、上顎洞炎を放置するリスクとして存在することを忘れてはなりません。たかが鼻の病気と侮ることは、絶対にあってはならないのです。自己判断で自然治癒に期待するのは、こうしたリスクを自ら高める行為です。症状があれば速やかに耳鼻咽喉科を受診し、専門家の診断と治療を受けること。それが、あなたの健康を守るための最も確実な方法です。