口内炎ができる場所によって、体の不調を推測する、という考え方は、確かに興味深いものです。しかし、現代医学的な観点から見ると、ストレス性の口内炎において、より本質的で、重要なキーワードは、「場所」よりも、むしろ「免疫力の低下」です。ストレスが、いかにして、私たちの体の防御システムを弱め、口内炎という形で、警報を鳴らすのか。そのメカニズムを理解することが、根本的な予防に繋がります。私たちの口の中は、本来、外敵から身を守るための、非常に高度な防御システムが、備わっています。その主役の一つが、「唾液」です。唾液には、リゾチームや、ラクトフェリンといった、天然の抗菌物質が含まれており、細菌の増殖を抑えています。また、常に口の中を洗い流し、清潔に保つ、自浄作用も担っています。もう一つの主役が、粘膜そのものに存在する「免疫細胞」です。彼らは、粘膜の表面を常にパトロールし、細菌やウイルスなどの、侵入者を発見すると、直ちに攻撃を開始し、炎症が広がるのを防いでいます。しかし、私たちが、強い精神的、あるいは、肉体的なストレスに晒されると、この、鉄壁のはずの防御システムに、綻びが生じ始めます。ストレスは、自律神経のバランスを乱し、唾液の分泌量を、著しく減少させます。口の中が乾燥すると、抗菌作用も、自浄作用も低下し、細菌が繁殖し放題の、無法地帯となってしまいます。さらに、ストレスホルモンである「コルチゾール」は、免疫細胞の働きを、直接的に抑制してしまいます。つまり、パトロール隊員の数が減り、その武器も、弱体化してしまうのです。この、「唾液バリア」と「免疫バリア」という、二重の防御壁が、同時に崩壊した状態。それが、ストレス下の口内環境です。そこに、歯で噛んでしまったり、硬い食べ物が当たったりといった、ささいな傷ができると、普段なら、すぐに治るはずの傷口から、勢いを増した細菌が侵入し、あっという間に、炎症、つまり、痛い口内炎へと発展してしまうのです。口内炎ができる場所は、偶然、その時に傷ができた場所に過ぎません。本質的な問題は、口の中全体の「防御力が低下している」という、事実なのです。ストレスを管理し、免疫力を高く保つこと。それこそが、口の中の、どの場所にも、口内炎を作らせないための、最強の予防策と言えるでしょう。
口内炎とストレス。その関係は、場所よりも「免疫力」が鍵