私たちの顔の中で、なぜ唇は特に乾燥しやすく、カサカサになってしまうのでしょうか。頬や額の皮膚はそれほどでもないのに、唇だけが荒れてしまう。その背景には、唇が持つ、他の皮膚とは全く異なる、非常にデリケートな構造的特徴が隠されています。まず、最も大きな違いは「皮脂腺」と「汗腺」がほとんどないことです。私たちの皮膚は、皮脂腺から分泌される皮脂と、汗腺から出る汗が混ざり合ってできる「皮脂膜」という天然の保湿クリームで覆われています。この皮脂膜が、水分の蒸発を防ぎ、外部の刺激から肌を守るバリアの役割を果たしています。しかし、唇にはこの皮脂膜を自ら作り出す能力がほとんどありません。そのため、常に無防備で、乾燥しやすい状態に置かれているのです。次に、唇の「角質層」が非常に薄いという特徴があります。皮膚の最も外側にある角質層は、外部の刺激から肌を守り、内部の水分を保持する重要な役割を担っています。顔の他の部分の皮膚に比べて、唇の角質層はその厚さが数分の一しかありません。バリア機能が元々弱いため、少しの乾燥や刺激でも、すぐにダメージを受けてしまうのです。唇が赤く見えるのも、この角質層が薄いために、下にある毛細血管が透けて見えているためです。さらに、唇はターンオーバー(肌の生まれ変わり)のサイクルが非常に早いという性質も持っています。顔の皮膚が約二十八日周期であるのに対し、唇はわずか三日から五日程度で新しい細胞に入れ替わります。このため、一度荒れてしまうと、その影響がすぐに現れやすく、皮むけなどのトラブルに繋がりやすいのです。このように、唇は生まれつき、非常に乾燥しやすく、デリケートな構造をしています。だからこそ、他の皮膚以上に、意識的な保湿と、刺激からの保護が不可欠となるのです。