ある朝、目を覚まして鏡を見ると、自分の顔がいつもと違うことに気づく。上唇がまるで別人かのように、ぷっくりと腫れ上がっている。痛みやかゆみはないけれど、その異様な見た目に、誰しもパニックになってしまうでしょう。このように、眠っている間に突然、上唇が腫れてしまう現象には、一体どのような原因が隠されているのでしょうか。最も一般的に考えられる原因の一つが「血管性浮腫(けっかんせいふしゅ)」、別名クインケ浮腫とも呼ばれるものです。これは、何らかの原因で皮膚の深い部分にある血管から血液の成分が漏れ出し、局所的にむくみ(腫れ)を引き起こすアレルギー反応の一種です。唇や目の周りなど、皮膚の柔らかい部分に現れやすいのが特徴で、通常は痛みやかゆみを伴わず、数時間から数日で自然に消えていくことがほとんどです。原因としては、特定の食べ物(そば、甲殻類、果物など)や、薬剤(痛み止めや血圧の薬など)、あるいは疲労やストレス、寒冷刺激などが引き金になると言われていますが、原因が特定できないケースも少なくありません。次に考えられるのが、寝ている間の無意識の行動です。例えば、口呼吸の癖がある人は、睡眠中に口の中が乾燥し、唇が荒れやすくなります。その荒れた唇を、無意識のうちに舐めたり、吸ったり、あるいは歯で軽く噛んだりすることで、粘膜が刺激され、炎症を起こして腫れてしまうことがあります。また、枕や布団に顔をうずめて寝る癖がある場合、長時間にわたって上唇が圧迫され続け、血行が悪くなることで腫れが生じることも考えられます。さらに、虫刺されの可能性も忘れてはなりません。寝ている間に、蚊やダニ、ブヨといった虫に唇を刺されると、そのアレルギー反応として大きく腫れ上がることがあります。この場合は、かゆみや刺された跡が残っていることが多いです。原因は様々ですが、もし呼吸困難や全身のじんましんを伴う場合は、危険なアナフィラキシーショックの可能性もあるため、すぐに救急車を呼ぶ必要があります。そうでなければ、まずは患部を冷やし、刺激しないようにして様子を見ることが第一歩となります。