歯科臨床の現場では、高齢者の患者様から「口の中全体が痛くて食事が進まない」という訴えを頻繁に受けますが、その背景を詳しく調べると、長年使用して適合が悪くなった入れ歯、いわゆる不適合義歯によるカタル性口内炎が原因であるケースが非常に多く、その治療プロセスは補綴的な調整と口腔粘膜のケアがいかに密接に関係しているかを如実に示しています。ある70代の男性の事例では、数ヶ月前から上顎の粘膜全体に広がる赤みと痛みを自覚しており、最初は市販の軟膏で対応していたものの症状が改善せず、当院を受診された際には、義歯が接触する部分だけでなくその周辺の広範囲にわたって高度な充血と浮腫が見られ、典型的なカタル性口内炎の診断が下されました。詳しく診査すると、長年の使用によって義歯の土台となる歯槽堤が吸収されて低くなっており、それによって義歯が食事のたびに大きく動き、粘膜との間に強い摩擦が生じていたことが判明したのですが、この機械的な刺激が持続的に加わることで粘膜上皮が慢性的な炎症状態に陥り、さらに義歯の裏側に付着したカンジダ菌などの汚れが二次感染を引き起こして症状を悪化させていたのです。治療方針としては、まず炎症を鎮めるために義歯の装着を一時的に制限し、炎症を抑えるための含嗽剤と義歯洗浄剤の徹底を指導するとともに、義歯の裏面に機能的なクッションとなるリライニング材を盛り付ける応急処置を行いましたが、この処置だけでも数日後には粘膜の赤みが劇的に引き、患者様の表情が目に見えて明るくなったのが印象的でした。カタル性口内炎は、このように原因となる物理的なトリガーを取り除くことで比較的速やかに改善へと向かいますが、問題は再発の防止にあり、この患者様の場合も、最終的には新しい義歯を精密に作製し直し、正しい噛み合わせと適合を確保することで、以後1年以上の経過観察において再発は一度も認められていません。この事例が教える重要な点は、カタル性口内炎を単なる粘膜の病気として捉えるのではなく、その背後にある義歯の機械的エラーや口腔衛生環境の不備をトータルで診断し、解決する必要があるということであり、特に入れ歯を使用している方にとっては、定期的なメインテナンスこそがこの苦痛から逃れるための唯一の道であるということです。また、高齢者は口腔内の感覚が鈍くなっていることもあるため、本人が痛みを訴える頃には炎症がかなり進行している場合もあり、周囲の家族や介護者が口の中の不自然な赤みや食事量の減少といった変化に気づき、早めに専門医に繋げるという連携の重要性も、こうした事例研究を通じて改めて浮き彫りになりました。
不適合義歯によるカタル性口内炎の臨床事例研究