上唇の裏側に白いできものができると、私たちは反射的に「口内炎だ」と判断してしまいがちです。しかし、見た目が似ていても、口内炎とは全く異なる病気である可能性も考えられます。特に、症状が長引いたり、いつもと様子が違ったりする場合は、自己判断せずに注意深く観察することが大切です。口内炎と間違えやすい代表的なものに、「粘液嚢胞(ねんえきのうほう)」があります。これは、唇の内側にある小さな唾液腺(小唾液腺)の管が、誤って噛むなどの原因で詰まったり、傷ついたりすることで、唾液がうまく排出されずに粘膜の下に溜まってしまい、水ぶくれのようにぷっくりと膨らむ病気です。見た目は半透明で青紫色を帯びることが多く、大きさは数ミリから一センチ程度。通常、痛みはほとんどありません。潰れて一時的に小さくなっても、また同じ場所に再発を繰り返すのが特徴です。自然に治ることもありますが、何度も繰り返す場合は、歯科や口腔外科で小唾液腺ごと切除する簡単な手術が必要になることがあります。また、「乳頭腫(にゅうとうしゅ)」という良性の腫瘍の可能性もあります。これは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因でできる、カリフラワーのような、あるいはイソギンチャクのような、表面がブツブツとした白いできものです。これも通常、痛みはありません。小さいものであれば経過観察となることもありますが、大きくなったり、気になる場合は切除の対象となります。その他にも、稀ではありますが、線維腫や脂肪腫といった良性腫瘍、あるいは口腔がんの初期症状である可能性も完全に否定することはできません。これらの病気との鑑別は、専門家でなければ不可能です。「いつもの口内炎とちょっと違うな」「二週間以上治らないな」「痛みがないのに、ぷっくりと膨らんでいるな」と感じたら、それは専門医に相談すべきサインです。安易な自己判断はせず、歯科や口腔外科を受診してください。