上顎洞炎の原因は、風邪やアレルギーによる鼻の炎症だけだと思われがちですが、実はその約一割から三割は、上の奥歯のトラブルが原因で起こる「歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)」であることが知られています。そして、この歯が原因の上顎洞炎は、残念ながら自然に治ることは決してありません。なぜなら、病気の根本原因が歯にある限り、それを解決しないことには、炎症が治まることはないからです。上顎洞の底の部分は、上の奥歯の根の先端と非常に近い位置にあります。人によっては、薄い骨一枚で隔てられているだけ、あるいは歯の根の先端が上顎洞の中に突き出している場合さえあります。このため、上の奥歯に深い虫歯ができたり、歯周病が進行したりして、歯の根の先に膿の袋(根尖病巣)ができてしまうと、その細菌が簡単に上顎洞内へと侵入し、炎症を引き起こしてしまうのです。これが歯性上顎洞炎のメカニズムです。この場合、いくら耳鼻咽喉科で抗生物質を飲んだり、鼻の処置をしたりしても、それはあくまで対症療法にしかなりません。大元である歯の感染源が残っている限り、薬をやめればすぐに症状は再発します。片側だけに症状が出る、特定の歯に痛みや違和感がある、悪臭のする鼻水が出るといった特徴があれば、歯性上顎洞炎が強く疑われます。この病気の治療には、耳鼻咽喉科と歯科の連携が不可欠です。まずは歯科で、原因となっている歯の根の治療(根管治療)や、場合によっては抜歯を行い、感染源を徹底的に除去する必要があります。そして、それと並行して、耳鼻咽喉科で上顎洞の炎症を抑える治療を行います。もし、長引く上顎洞炎に悩んでいて、耳鼻咽喉科の治療だけではなかなか改善しないという場合は、一度、歯科医院で上の奥歯に問題がないかを診てもらうことをお勧めします。隠れた原因を見つけることが、完治への第一歩となるかもしれません。