ある日突然、上唇や目の周りが、痛みもかゆみもなく、ぷっくりと腫れ上がった。そんな奇妙な症状が現れたら、それは「クインケ浮腫」かもしれません。これは、皮膚の下にある血管の透過性が高まり、血液中の水分(血漿)が周囲の組織に漏れ出すことによって生じる、局所的なむくみ(浮腫)です。一般的なじんましんが皮膚の浅い部分で起こるのに対し、クインケ浮腫はより深い層で起こるため、はっきりとした赤みや強いかゆみは伴わないのが特徴です。腫れは、数時間から数日の間に自然に消えていくことがほとんどで、跡も残りません。このクインケ浮腫の引き金となるものは多岐にわたります。最も分かりやすいのは、特定の食べ物や薬剤に対するアレルギー反応です。エビやカニなどの甲殻類、そば、ナッツ類、果物などが原因となることがあります。また、痛み止めとしてよく使われる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や、血圧を下げる薬(ACE阻害薬など)が原因となることも知られています。しかし、アレルギー検査をしても、特定の原因物質が見つからない「特発性」のケースも非常に多く存在します。この場合、疲労やストレス、寒暖差、気圧の変化、あるいは皮膚への物理的な圧迫などが、発症の誘因になると考えられています。例えば、長時間マスクをしていた圧迫や、寝ている間の寝具による圧迫が、唇の腫れを引き起こすこともあります。ほとんどの場合は、唇や顔の一部が腫れるだけで、命に別状はありません。しかし、注意しなければならないのは、喉の粘膜にクインケ浮腫が起こった場合です。喉が腫れると、気道が狭くなり、呼吸困難に陥る危険性があります。これはアナフィラキシーショックの一部として現れることもあり、命に関わる緊急事態です。もし、唇の腫れとともに、息苦しさや声のかすれ、全身のじんましんなどの症状が現れた場合は、ためらわずに救急車を呼び、速やかに医療機関を受診してください。