食いしばりや歯ぎしりの治療法として、最も広く知られているのが「ナイトガード」とも呼ばれるマウスピースの装着です。一方で、近年注目されているのがボトックス治療です。この二つの治療法は、どちらも歯を守るという目的は同じですが、そのアプローチの方法と効果には、根本的な違いがあります。マウスピース治療は、「防御的」なアプローチと言えます。夜間に歯の形に合わせて作られたマウスピースを装着することで、食いしばりや歯ぎしりの際に発生する強力な力から、歯や顎関節を直接的に守ります。歯がすり減ったり、欠けたりするのを防ぎ、顎関節への負担を和らげる効果があります。しかし、この治療は、食いしばりや歯ぎしりをする「力そのもの」を弱めるわけではありません。いわば、歯と歯の間にクッションを挟んで、衝撃を吸収している状態です。そのため、人によっては、マウスピースを異物と感じて、かえって強く噛みしめてしまったり、朝の顎の疲労感が変わらなかったりすることもあります。また、装着の手間や、毎日の洗浄といったメンテナンスも必要です。一方、ボトックス治療は、「根本的」なアプローチです。食いしばりの原因となっている咬筋(ものを噛む筋肉)の過剰な働きを、ボトックスの作用によって直接的に和らげます。これにより、無意識に行っている強力な食いしばりの力そのものを、正常なレベルにコントロールすることができます。筋肉の緊張が解けるため、顎の疲労感や、それに伴う頭痛、肩こりといった症状の改善も期待できます。マウスピースのように、装着する手間や違和感もありません。ただし、ボトックスの効果は永久的ではなく、三ヶ月から半年で薄れていくため、効果を維持するには定期的な治療が必要です。また、保険適用外の自由診療となります。どちらの治療法が優れているというわけではなく、それぞれにメリット・デメリットがあります。自分の症状やライフスタイルに合わせて、歯科医師とよく相談し、最適な治療法を選択することが大切です。場合によっては、両方を併用することで、より高い効果が得られることもあります。