「口を開けると、顎がカクカク鳴る」「口が大きく開けられない」「顎の付け根が痛い」。これらの症状は、「顎関節症」の三大症状として知られていますが、実は、顎がしゃくれている(下顎前突)人は、そうでない人に比べて、顎関節症を発症するリスクが高いと考えられています。顎のしゃくれと顎関節症には、切っても切れない密接な関係があるのです。顎関節は、頭蓋骨のくぼみに、下顎の骨の先端(下顎頭)がはまり込む形で構成されており、その間には「関節円板」というクッションの役割を果たす軟骨が存在します。私たちが口を開け閉めする際には、この下顎頭が関節円板と共に、スムーズに前後に滑るように動いています。正常な噛み合わせでは、この動きは非常に調和がとれており、関節や筋肉に過度な負担はかかりません。しかし、顎がしゃくれている反対咬合の状態では、このスムーズな動きが妨げられてしまいます。下の歯が上の歯に引っかかり、正常な顎の運動路から外れた、無理な動きを強いられることになるのです。例えば、食べ物をすり潰すために顎を横に動かそうとしても、前歯がロックされてしまい、下顎を一度、大きく前や横にずらしてからでないと動かせない、といったことが起こります。このような異常な顎の動きが毎日繰り返されることで、顎関節のクッションである関節円板がずれたり、傷ついたり、あるいは下顎を動かす筋肉(咀嚼筋)が過度に緊張して疲労したりします。これが、顎関節症の発症の引き金となるのです。関節円板がずれると、口を開け閉めする時に「カクッ」というクリック音が生じ、症状が進行すると、円板が引っかかって口が開かなくなる「クローズドロック」という状態になることもあります。また、咀嚼筋の慢性的な緊張は、顎の痛みだけでなく、そこから繋がる側頭筋や首、肩の筋肉にまで影響を及ぼし、頭痛や肩こりの原因ともなります。顎のしゃくれを放置することは、単に見た目の問題だけでなく、顎という、話す・食べるといった生命活動の根幹をなす重要な器官の健康を、日々、静かに蝕んでいく行為でもあるのです。
顎のしゃくれと顎関節症の密接な関係